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オリンピアンの新城幸也選手スペシャルインタビュー 沖縄を自転車で走る魅力とは?

Photo:Miwa IIJIMA

沖縄の石垣島で生まれ育ち、10代後半からロードレースに打ち込んできた新城幸也さん。ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャという3大グランツール全てを完走した初の日本人ライダーとして活躍し、昨年は、ロンドン、リオに続き東京オリンピックにも出場しました。そんな自転車競技のスペシャリスト・新城さんに、日本を舞台に行われたオリンピックに出た感想とともに、自転車で巡る沖縄の魅力などをお聞きしました。

後半では、自転車を使った観光プランづくりに力を入れている沖縄県サイクルスポーツ振興協会の代表理事・森豊さんと元プロレーサーでリオデジャネイロオリンピック日本代表の内間康平さんも加わり、サイクリングを軸とした沖縄観光の未来について語り合いました。

―まずは、オリンピック出場お疲れ様でした。自身3回目となるオリンピック。今回は、自国での開催となりましたが出場してみていかがでしたか?

オリンピックが東京で行われることが決まった時から出場したいと思っていたので、実際に走ることができて嬉しかったですね。普段はヨーロッパに拠点を置いているので、日本で走れることはとても光栄でした。実際に走ってみると、沿道やスタンドから聞こえてくる日本の方の応援に勇気づけられました。ゴール会場の富士スピードウェイにはたくさんの人が集まってくれて、ツール・ド・フランスで例えるなら、ゴール地点のシャンゼリゼ通りを走っているときのような華やかな雰囲気で、胸が高鳴りました。

―オリンピック直前には、沖縄本島北部で合宿を行ったそうですね。沖縄はトレーニングをする上で、どんなメリットがありますか。

沖縄本島北部は地元では「山原(やんばる)」とも呼ばれていますが、沖縄では珍しく、山が連なる自然豊かな場所です。アップダウンの激しい道が多く、トレーニングをするには最適な環境といえます。急坂を登ったり、海沿いを走ったりと、いろいろなシチェーションで走れるのも魅力です。僕はよく名護市の許田から東村に向かい、そこからさらに北上して与那覇岳を登るコースを走っていますが、多野岳を登る4キロほどの坂道もおすすめです。山頂からは、古宇利島・屋我地島・羽地内海が一望でき、見晴らしも最高です。

―沖縄本島北部といえば、新城さんにとっても思い出の深い場所ですよね。

そうですね。僕が初めて自転車レースに参加したのが、名護市の北部にある屋我地島でした。確か小学5年生のときだったと思いますが、父が屋我地島で毎年開催されているロードレースの大会に出ていて、家族旅行も兼ねて応援に行っていました。その大会で行われる子ども用のクラスに参加したのが初めてのレース体験でした。その時はロードバイクではなく子供用の自転車で出場していましたが、どうしても勝てない子がいて毎年2位だったのを覚えています。

―子供の頃からロードレーサーを目指していたのでしょうか。

いえ、石垣島で行われるジュニアトライアスロンには出ていましたが、中学・高校は、ハンドボールに熱中していました。大学でもハンドボールを続ける気持ちでいましたが受験に失敗してしまいました。ちょうどそのタイミングで、父の知り合いでもあるプロレーサーの福島晋一さんから声を掛けていただき、気分転換も兼ね、フランスで3ヶ月過ごし、本場のロードレースに参加しました。

フランスに行ったときは、プロを目指すという考えはなかったのですが、実際にレースを走ってみると楽しくて、ワクワクした気持ちを抑えられませんでした。

物事に必死になって打ち込んだのも初めての体験で、本気でやってみたいと思うようになり、石垣島に帰ってすぐに両親を説得しました。ロードレースの大変さを知っている父からは厳しい言葉も受けましたが、大学に行く予定だった4年間をサポートしてもらいました。 子供の頃から自転車レースやトライアスロンなどの競技に出るなど経験を積ませてくれた両親には感謝しかありません。

Photo:Miwa IIJIMA
昨年開催された「ジロ・デ・イタリア」のレースシーン。新城幸也のさんが所属するバーレーン・ヴィクトリアスのダミアーノ・カルーゾは1分29秒差で総合2位に。/ Photo:Miwa IIJIMA

―世界のトップ選手たちとしのぎを削っている新城さんですが、これからプロを目指す子供たちへアドバイスをお願いします。

子供の頃から自転車に乗り込んで鍛えるのもいいと思いますが、体のいろいろな動きを身につけるためにも、様々なスポーツをたくさん経験するようにしてください。運動能力の幅を広げることができると思います。

―最後に、沖縄で自転車を楽しみたい人たちにメッセージをお願いします。

沖縄はどこもかしこもインスタ映えするところばかり。僕も帰って来るたびに沖縄の海の美しさには、感動をさせられています。山や海に行けば気持ちが良く、心も体もリフレッシュできます。おいしい料理もたくさんあるので、食べ歩きではなく、グルメライドを楽しんでほしいと思います。ちなみに僕は、沖縄そばが好きですね。お店によっても味が違うので、いろいろ試してみてください。

ロードレースにのめり込んだ経緯から、沖縄を自転車で巡る楽しさまで語ってくれた新城さん。ここからは、自転車を新たな観光ツールとして多くの人にPRするためには、どういった手段があるのか。世界の事情を良く知る新城さんに、森豊さんと内間康平さんが、質問攻め。どのような話が飛び出したのでしょうか。

左が内間さん、右は森さん。

 世界中の国々を走った経験がある新城さんにお聞きしたいのですが、まず、沖縄だからこそ感じる魅力があれば教えてください。

新城 何度見ても感動する自然の風景はもちろんですが、やっぱり一番の魅力は沖縄の人たちの優しい人柄ですね。僕たちがトレーニングをしていると、畑で作業している人が声をかけてくれたりします。そのたびに温かみを感じますね。あと地元だからだというのもありますが、聞き慣れた方言を聞くとホッとした気持ちになりますね。

 今私は、内間さんや(一社)日本サイクリングガイド協会のメンバーと連携を取りながらサイクルガイドの養成に力を入れています。そこでお聞きしたいのですが、新城さんがガイドに連れて行ってもらって魅力的だった体験ツアーがあれば教えてください。

新城 スウェーデンでトライした体験ですが、自転車にスパイクタイヤを履かせて雪の上を走るツアーに参加したことがあります。スリルがあって楽しかったですね。ハンドルが少し曲がっただけでも倒れてしまいますが、まっすぐ固定すれば雪の上でも結構走れるんですよね。例えば沖縄でも、亜熱帯植物に囲まれた林道をマウテンバイクで走るといった、ここでしかかできない特別な体験があると、海外の人たちも興味を持つのではと思います。

 やんばるの森は昨年世界遺産に登録されたこともあり、新たな林道コースを作るのは難しいとしても、道路や既存の施設を使えば実現可能かもしれないので検討していきたいですね。 海外経験が豊富な新城さんに質問ですが、沖縄の魅力的なコンテンツを県外や海外の人に伝えていくにはどうしたらよいでしょうか。

新城 僕たちのチームでもPRのためによくやっていますが、自転車に小型カメラを付けて臨場感のある動画を撮り、その映像をYou Tubeなどに公開してみてはいかがでしょうか。美しい風景の中を走るシーンは爽快感もあり、動画を観た人は、沖縄に行ってみたくなると思います。

画面越しの新城さんとお二人。

内間 最近僕は、ドローンを使って上空からサイクリングをしている様子を撮影したりしています。動画を使ってPRするのは有効な手段だと思います。

最後に僕からもよろしいですか。観光の話とは少しそれますが、オリンピック前に沖縄で合宿することになった理由をよろしかったら教えてください。

新城 2月の寒い時期に日本国内で思いっきり走れる場所が沖縄以外になかったこともありますが、トレーニングをする場所としての実績があり、設備が整っていたことが大きかったと思います。

内間 コロナ禍で練習環境も変わり、コンディションを維持するのが難しかったと思いますがどのように本番に備えたのでしょうか。

新城 昨年は、コロナ感染予防対策のため海外合宿を行うことが難しい状況で、強度の高い練習を行うのが難しい状況でした。そこで短期間ではなく、2ヶ月、3ヶ月と長いスパンを使ってトレーニングを積み重ねていくようにしました。シーズンを終えたばかりなので、体のケアも行いながら、例年以上に「強度のトレーニング日」を多く作り、本番に向けて体を追い込み仕上げていきました。

最後は、観光ツールの話からプロのアスリートの調整法まで話が広がり、盛り上がった3人。新城さんのアドバイスを受けて今後どんな自転車を使った観光プランを構築していくのか。今後がとても楽しみです。