TRIATHLON

トライアスロン

スペシャルインタビューVOL.2 無限大の競技がもたらすもの 沖縄をトライアスロンアイランドに

Interview

「沖縄からトライアスロンのオリンピック選手を」と沖縄でスクールを主宰する千葉智雄さん。競技者、そして指導者としての目線で、トライアスロンの魅力、沖縄の恵まれた環境をおおいに語っていただきました。

ヤンバルはバイク練習の適地

沖縄がトライアスロンのフィールドとして絶好の地だとその魅力にのめり込んだのは、23年前。僕がプロのトライアスリートの道で生きていこうと決意し、初めて合宿で沖縄を訪れたのがきっかけです。
 バイク練習は時速40kmで走るので、本土だと冬場の体感温度はマイナスの世界。寒い中での練習は怪我や故障につながりますが、その時期も怪我なく、思いっきりカラダを動かしてトレーニングの効率を上げるには、沖縄の温暖な気候は絶対的なアドバンテージだと感じました。
 もう一つはあらゆる練習メニューに対応できる環境です。例えば、名護以北の国道58号は辺戸岬までまっすぐな一本道で、信号もほとんどありません。信号はおろか、カーブがあると数十秒でも足を止めることになり、練習の効果がそれだけでダウンします。40数km、ずっとペダルをこぎっぱなしの練習ができる環境は実は本土では珍しいのです。

ツール・ド・おきなわでも名物の与那からの山越え
ツール・ド・おきなわでも名物の与那からの山越え

一方、ヤンバルの東海岸はアップダウンの連続。西海岸を走るストレートでまっ平らな国道58号と東海岸を走る起伏の激しい県道70号線、ヤンバルには二つの要素が揃っています。ツール・ド・おきなわのコースとして有名な西海岸の国頭村与那から東海岸の安波に抜ける県道には7km続く上り坂もあります。
 この環境を利用しようと、トライアスロンのナショナルチーム、自転車競技のプロチームが数多く沖縄で合宿をしています。世界中のトライアスロンの大会の条件が沖縄には詰まっているので、僕がプロの先輩に交じって練習していたころ、「バイク練習に適した最高の場所。ここで乗っていれば強くなる」と実感しました。

無限大の競技がもたらすもの沖縄をトライアスロンアイランドに

(写真右より)田中敬子選手、千葉ちはるさん
(写真右より)田中敬子選手、千葉ちはるさん

トライアスロンのメッカとの共通点

同じくプロのトライアスリートだった妻のちはるとオーストラリアのゴールドコーストへ合宿に行った時、平日の早朝から自転車に乗る集団と次々に出会い、そのままカフェに行く人もいれば、海で泳ぐ人もいて、その後、出勤するというライフスタイルに衝撃を受けました。「さすがトライアスロンのメッカだ」と感じましたが、ちはるは「私の故郷にはこんなビーチもあるし、こんな道もある」とあっさり言うのです。沖縄出身のちはるの一言で、ゴールドコーストに行かなくても沖縄でできると確信しました

このライフスタイルを沖縄に取り込もうと、2000年にトライアスロンのチームを立ち上げました。今では、潮の干満を見て、メンバーに「今日は万座、明日はかりゆし、あさってはブセナ」などとビーチを伝えてバイクで走りそのまま海に飛び込む、ゴールドコーストさながらの練習を展開しています。僕たちチームのホームグラウンドは「沖縄のビーチ全部」といえるぐらい、あちこちで練習しています。
 なかでもよく利用するのは、走りやすい砂浜でそのまま海にエントリーできる海中道路です。トライアスロン競技の特徴として、砂浜から海への飛び込み方や海から上がる時の水際の走り方次第で集団から遅れてしまうので、水際の練習は重要です。海中道路はその練習に適しています。南部はサンゴの死骸が多いビーチもあるので、怪我のリスクを避けるため、そこでは徹底的に泳ぎの練習をやります。
 バイク同様、練習の目的に合わせて、場所を選ぶわけです。僕たちは沖縄のどこにどんな坂があって、どんなビーチがあるか知り尽くしているので、練習メニューに合わせて、場所を決めています。

トップアスリートだけでなく、初心者にも

 トライアスロン初心者のバイク練習は南部一周がいいでしょう。全長50kmで、北部ほど長い上りがあるわけではなく、細かなアップダウンやカーブの曲がり方などバイクの基礎的な練習にぴったりの地形なのです。
 国道58号は那覇から北谷までは交通量が多いのですが、車さえ気を付ければ案外走りやすい。片側が3車線ある上、路肩が広く、名護以北も片側1車線とはいえ、広い路肩がしっかり設けられているので大型車が走行していても逃げられるスペースがあります。沖縄ではバイクの走行スピードが多少遅くても、クラクションを鳴らされず、車が勝手にどんどん抜いてくれるので、初心者でも心配ありません。

海際を走るフラットな国道58号(大宜味村)
海際を走るフラットな国道58号(大宜味村)

週末は沖縄でトライアスロン

僕たち夫婦は「沖縄からオリンピック選手を輩出する」という目標を掲げ、さらに「沖縄をトライアスロンアイランドに」と夢を持ち、2006年に読谷での大会開催を機にいくつも大会を立ち上げてきました。2014年からは「美ら島チャレンジトライアスロン in 豊崎」がNTTジャパンカップと同時開催となり、全国からプロ・アマともに大勢参加者が集まる大会になりました。大会会場が空港から10分ほどという便利な点もこの大会の魅力です。
 東京では、練習するために車で遠出して高速代や駐車場代を使って、帰りには渋滞に巻き込まれてストレスを溜めてしまうのに比べると、「格安航空券でいっそ沖縄に行っちゃえ」という感覚になります。土曜日に沖縄に行って、大会に出たり、バイクやスイムの練習をして、日曜日に帰る。「ちょっと沖縄でトライアスロンやってくる」という感覚。それぐらい沖縄は便利な環境です。

週末は沖縄でトライアスロン
  
   

沖縄の選手にとって宮古島大会優勝の意義

 
2014年開催の第30回全日本トライアスロン宮古島大会で優勝した田中敬子選手。2位に20分の差を付けて圧勝
2014年開催の第30回全日本トライアスロン宮古島大会で優勝した田中敬子選手。2位に20分の差を付けて圧勝

チームに所属している田中敬子選手が2014年の全日本トライアスロン宮古島大会で優勝しました。日本で開かれるロングディスタンスの大会では最高峰に位置付けられ、プロの全選手が集まり、誰もが勝ちたい大会です。プロに限らず、エイジと呼ばれる一般の人たちも5歳刻みで表彰されるので、この大会の表彰台はプロ・アマ問わずトライアスリートにとっては、憧れの舞台なのです。ちはるが2003年に優勝しましたが、実はそろそろ競技引退を考えている時期でもありました。しかし、一度は取りたいタイトルが目の前にあるのだからチャレンジしようと取り組んだ結果が優勝だったので、僕たちは興奮しました。県勢初の優勝に沖縄のトライアスロン界全体が盛り上がったことにも感動しました。2014年大会で、教え子の田中選手が優勝した時も沖縄じゅうが盛り上がり、「よかったね」の声の多さに驚いています。ロング競技をやるからには取らせてやりたいタイトルだったので、ほんとうにうれしかったです。

勝因は沖縄の風を克服できたことです。大会時はものすごい風が吹き、他の選手は苦戦していましたが、田中選手は大会に備えて、強風が吹き付ける辺戸岬でいつも練習していたので、ヤンバルの風に比べたら、「まったく問題ない」と気持ちに余裕ができたことで勝利を手繰り寄せました。今後、田中選手には連覇をさせてあげたいし、将来的には指導選手の2~3人は優勝させたいものです。
この大会は他の大会にはない独特の雰囲気を持っています。ゴールには選手の家族や友人、知人が一堂に会し、選手とともにゴールします。あんな空気に包まれた大会は日本全国探しても宮古島だけ。だからこそ、宮古島は「トライアスロンの聖地」と言われているんです。

沖縄の選手にとって宮古島大会優勝の意義

1+1+1=∞

千葉智雄さん

トライアスロンという競技の魅力は、スイム、バイク、ランと3種目あることにより1プラス1プラス1が3ではなく、無限大になることです。競泳もマラソンも1種目だけやり続けていると、ある程度の年齢でタイムがどうしても落ちてしまう。タイムを維持するだけでも大変です。トライアスロンの場合、スイムの後、バイクが全然乗れなくて、このままだとランも動きが悪いかと思いきや、ランでものすごく速いタイムが出たり、その反対もありうるわけです。僕はプロとして11年間で150レースぐらい走ってきましたが、満足したレースは3つぐらいしかありません。それほど奥が深い競技です。「無限大」の可能性を秘めた競技なので、年齢を重ねても伸びる要素はいくらでも隠れています。そこが3種目あるクロススポーツのおもしろさ。年齢を重ねた人たちが去年よりタイムが上がることは普通のことです。
 今、トライアスロンがちょっとしたブームになっていて、競技人口が増えています。人はトライアスロンに何を求めているのか。それは達成感が欲しいだけだと思います。我慢比べのような競技ですが、過酷さゆえにゴールした時の達成感は計りしれません。
 チームにも毎年、泳げない人が数名入ってきますが、1年でちゃんと泳げるようになり、大会にも出ています。まさか自分がトライアスロンをやるなんてと思っている人でも、案外やってみたらできちゃったという人が多い。みんな、今の自分をちょっと超えたい、そんな気持ちでチャレンジしているのです。ゴールした時の満面の笑顔がそれを物語っています。

子どもにとってトライアスロンとは

今後は子どもたちの育成に今以上に力を入れていきたいと、スイムランや短い距離のトライアスロンの大会を沖縄で年に何度か開催することを企画しています。小学生のうちはいろいろな運動神経を伸ばすことを優先させて、運動センスを磨いておけば、のちにどんな競技にも役に立ちます。トライアスロンの競技人口の底辺拡大のためにも、子どもたちに仕掛けていきたい。2020年の東京オリンピックにはまだ早いですが、必ずここから強い選手が出て来るはずです。始めない限りおもしろいことはおきないので、何もやらなければゼロですが、やれば必ず広がっていく。「トライアスロンといえば沖縄」といえるまでにプロジェクトを進めていきたいです。
 僕と縁があった女性が沖縄の出身で、沖縄を拠点に二人でチームを立ち上げ、トライアスロンにうってつけの恵まれたこの環境で指導にあたることができ、この上ない幸せです。

千葉智雄さん

プロフィール

1971年生まれ、 愛知県出身。 1991年~2000年、プロトライアスリートとして活動。2000年、沖縄にて那覇市出身の妻、ちはるさんとともにトライアスロンスクール「チームゴ~ヤ~」を立ち上げる。2006年~、沖縄でトライアスロン大会(美ら島チャレンジトライアスロンin豊崎、やんばるドリームトライアスロンin国頭、トライアスロンカーニバルin読谷)を主催。現在、「チームゴ~ヤ~」にてエリートクラスを担当し、指導選手が世界を舞台にワールドカップを転戦。なかでも、田中敬子選手の活躍は目覚ましい。ちはるさんはキッズクラス・一般クラスを担当し、沖縄でのトライアスロン普及に努める。

千葉智雄さん